エセ日乗 31〜40

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近頃のパソコンは起動が早いですね。電源ボタンを押すと瞬く間にデスクトップが表示されて使用可能に。でもこれって便利な反面、すこし寂しいと思いませんか? 旧機のMacは起動するのに1分半位はかかっていたと思うけれど、この時間を本をめくったり、飲み物を取りに行ったり、足の爪をいじったりしてやり過ごすのが好きだった。時間のひびをセメントで埋めるみたいで気持ち良かった。たちまち準備万端になるパソコンは情味が乏しい。飛行機旅行同然。

つまり僕が何を言いたいかというと、カップ麺製造会社はわざと3分待たなければ食べられないように設計して、カップ麺を作っているに違いないということです。こういうサービス精神はコンピュータ会社にも見習って欲しいです。

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長期休暇でいよいよ脱線です。やる気がない、お金が足りない、おまけに家は窮屈、となればもう当ても無く放浪するしかありません。ただ歩き回るだけ。カバンに携帯ラジオと本一冊と、あと少しのお金を持って散歩をします。普段バスを使って登校しているところ、徒歩なら何時間かかるかとかね。暑い季節だからそのうち熱にあてられて倒れるかもしれない。これはささやかなお願いだけど、気絶している少年を見かけたら蹴飛ばしたりしないで救急車を呼んでください。

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最近、本を買う量と読む量のバランスが全然取れなくて困っています。船を侵していく水を手ですくい出そうとしているようで報われません。これって全部パソコンのせいです。はっきりいってパソコンが面白すぎて本が読めないんです。僕のせいじゃないんです。責めないでください。お金ください。お昼御飯つくってください。

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夜3時にさて寝る前にとトイレにいくために階段を下りていると、途中でゴキブリを見つけた。殺虫スプレーで致命傷を与えたけれど、あんまり腹が立ったのですぐに終わらせないで執拗に苛ませたあと、洗剤を使ってとどめとした。さてトイレに行こうかと食卓を横切るとなにか影の塊があるので蒼白、しかし正体は眠る父さん。用を済ませて部屋に戻ると、犬が呼吸器を悪くしたトドみたいないびきをしていた。これはいつものこと。

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結局のところ夏は、暑い、嫌だ、涼しくなれと漏らしつつ、熱中症で人死にがあったり、アラビア人が射殺されるくらいがちょうどいいみたいです。昨日は近所で御神輿をあげるお祭りがあったのですが、誰もやる気がないようすで、とても見られたものじゃありませんでした。もっと花火に点火できないほど蒸れないと。

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中学生が学校見学に来るというので、クラスから数人が要員に抜擢され、僕がそのひとり。先生の用意した言葉はどれも見事で、正に過大広告という他はありません。僕も中学生の時もうすこし真剣に説明を聞いていればよかったなと思いました。後片付けを終えたあと先生が昼食を手配してくれる約束で、僕の掌に置かれたのは500円玉でした。なにか奇妙な感じがしましたが、帰り道にコンビニでおにぎり3個を買いました。おわり。

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秋の襲来で蝉も木から落ちるこの季節、彼らを集める部隊がないと世界が蝉で埋め尽くされるでしょう。こんな時候の挨拶で文字数を稼ぐくらいの日々には、怠惰に置き去りにされた課題がよく似合い、握り方を忘れたシャーペンも書き味抜群です。

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蝉の声も小さくなったこの頃ですが、宵に犬を連れて近所の神社に行くと秋の虫が頑張りはじめていました。雲のせいで月は見ることができません。連れの犬は風に煽られるビニール袋を警戒しているばかりです。そんなものを見聞きしながら思い返してみると、夏のあいだには何も残さなかったことに気が付きました。秋にも何も残せないでしょう。この犬の毛は抜けはじめているというのに。

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明日は体育祭。のはずが雨のおかげで今日の晩のうちに延期の連絡網が活躍することに。明日は休日で、月曜日は登校、火曜日に体育祭、水曜日は休日という訳のわからないスケジュールが組まれてしまいました。涼しい夏と九月からの残暑、そして季節にふさわしい秋雨。延期される体育祭。萎えるやる気。読みきれない本。本棚が足りない。

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誕生日が来てまた歳をひとつ押し付けられてしまいました。十七歳なんてものはフィクションかフィクショナイズされた事実の断片でしかないと信じていたのに、なんと現実に僕自身が十七歳。世俗の因習に従って哀れな社会科の先生をナイフで突いて、権威たる専門家に中学校の卒業文集を仔細に分析され、権威たらざるエッセイストに後手に回った意見を説かれ、駅前で色紙にしたためたポエムを売って口を濡らさなければなりません。ある種族における割礼とかバンジージャンプのように。やはりハーモニカは要携帯でしょうか。

しかし、ごろごろ寝そべっていれば十分間が経つのとおなじように、一年間も過ぎるんですね。次の一年もそう短くないでしょう。