エセ日乗 1〜10

1

こういう些末な事柄をいちいち、しつこく、ほじくるようなのが嫌う人もいると思う。でもそれが気になって、ストレスでもって手に震えがきて、ベビースターラーメンを馬鹿みたいにぽろぽろこぼしてしまう人もいる。まさに僕である。少しだけ付き合ってほしい。

虻蜂取らず、ということわざがある。周知のとおり、欲張って多くの利益を追うと、結局はなんの利益も得られなくなるとの意味である。そんなまさか。いったい虻や蜂がどうして利益になるんだ。蜂が蜜蜂ならばかろうじて、飼いならした後にハチミツの収集に利用する、という窮余の一策が弄せるていどのものである。虻のついては、その活用法の提出を僕は放棄するつもりだ。冗談じゃない。

このあたりの事情を御存知の方がいたら、どうか教えてください。あと、いったいどんな奇跡が発生したなら『一石二鳥』が実現できるのかも。

2

さいきんどうも情緒安定で、日曜日の6時半に目覚めて、これはたいへんよろしい。

僕の知識では、お笑い路線のテキストサイトは情緒不安定や、人間失格な思考と生態を暴露させて笑いをとるのが、常套らしいということになっている。それはそうだ。他人の不幸は蜜の味、うまく誇張をまじえた失敗談はおもしろい。けれど僕は平々凡々のけちな日々を送っている人なので、抱腹絶倒の逸話がまるでないのだ。だれも日曜日の6時半にめざまし時計を使わず、おもむろに覚醒する男子高校生のはなしなんか、喜びやしない。初秋の朝の森に踏みいれて、虚空に指をさしのべると、梢とあやまり小鳥がぴたと羽を休めたはなしなんか、喜びやしない。なかなか難しいものだ、と思う。

3

未練がましく、こんなサイトを生き延びさせてきたのだが、近頃はいよいよ懶惰の本性が暴露されて、このサイトも僕自身もなんだか正体を失った。書くことがないから、といのは弁解にならない。書くつもりなら、どんなつまらない文でも書いたほうが、書かないよりはましな筈だ。どうせ本音はさぼり、なまけ、ぐうたら。最後には、こんな無名無実の弱小サイト、更新をなまけたところで誰も困りはしねえ、と開き直って己の脳の低品質をあらためて証明した。

4

『八木重吉全詩集』が古本屋に安くあったので買い求め、第一ページ目、どこぞの宗教団体の蔵書印が、ズンと押してあって驚いた。八木重吉は誠実なキリスト教徒だったことを思い出して納得したが、本の流れ道というのはなかなか不思議が多いと思った。

5

昨晩、深夜、突然ひどい腹痛に見舞われた。顔面にひっそりと汗を分泌しつつ、あたふたとトイレに転がり込む。わるいものは食べていないし、別に病気にかかってもいない、腹痛の理由も原因もわからず、これは、まったく不当の下痢である。筋が立たない。僕はとくべつに狭量の人間というわけでもないと、あるいは厚かましくも、そう思っているのだが、だけど聖人君子の筆頭でもないのだ。こういう一もニもない、見知らぬ通り魔に「おのれ、かくご」と殴りつけられるような、無慈悲な行いには我慢ならない。僕は、ひそかに、ある種の義憤に似た感情をさえ抱いているのだ。

断固、戦うべきである。

6

僕は無知で寡聞な人ではあるが、それでも、他の誰より深く理解していると、はばからず公言できることがある。それは消しゴムの死の孤独についてである。消しゴムというものは、ある程度まで消費すると丸く小さくなり、なにかの拍子に昔話のオニギリのごとく際限なく転がり、はたして永久に行方知らずとなる。これはもうほとんど宿命的な、途方もなくつまらなく、底抜けに悲しい結末であるように思われる。

僕は今使っている平々凡々たる消しゴムを、大根おろしのように使い切るつもりだ。ムキなって消費し切るつもりだ。しかし指の油がしみこむのだろうか、ちかごろは消字能力の減退著しいように感じられる。

7

下校時に通る公園には、両側にイチョウの植えられた道がある。ここ数日のうちにそれらの葉が一気に落ちて、誇張でなく、アスファルトの地面が見えなくなってしまった。足音もワサワサという音に変わった。

しかし園内には忌わしき常緑樹という木も、多く根を張っているのである。僕は彼らを見ると、思わず叱りつけてやりたくなる。冬が迫れば、人はセーターを着込み、犬は体毛を冬毛に取り替え、熊は冬眠をし、木は葉を散らすのが静かな自然のルールではなかったのか。よく恥ずかしくもなく、冷たい日光の中に広々と葉を展開できるものだ。全然、感受性や詩的精神が足りていないのである。水族館で寝そべる無能なセイウチとよく似ている。

8

サンタクロースは、その存在の噂が絶えないが、しかし模糊たる目撃談しか残っていないという点で、UFOやUMAに酷似している。が、しかしである。ネッシーやツチノコを本気の覚悟で捕獲しようという野心家はいるが、本物のサンタクロースとコミュニケーションを取ろうとする野心家はいない。

世界中の大人は最初から知っているのだ。世界の果てまで探したところで、サンタクロースなどどこにもいないということを。

9

初夢が悪夢だった。あんまりビックリしたので、昨朝のうちに初夢悪夢をノートに記録しておいた。「きのう変な夢見たんだけどサ」から始まる他人の話は本当につまらないことが多いので詳細は省略するが、ファクターだけを抽出すると、

枯れ木、声、落ち葉、影絵、デパート、窓ガラス割り、学級崩壊、踏み切り、赤信号、列車

最後の「踏み切り、赤信号、列車」が特に邪気が多いように感じるのですが、フロイト派の方か、夢判断士の方、情報求む。なにかのメタファーでしょうか?

10

冬休みが終わり、きのうは始業式、今日は平常授業だった。こういう日は堪らなく暗然たる気分になり、あの落ちる太陽が二度と登らなくとも本望などと考えてしまい、我が家の痴呆症のブタのように転がっている犬にすら嫉妬する始末。なにしろ飼犬には秒分時曜週月年世紀という時間概念がなく、ただ昼と夜の一日をくり返すだけなのだから。

すべての義務と権利を放擲してジャングルに移住してトラに食べられて死ぬのもいいかも知れない。